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大阪地方裁判所 平成9年(ワ)5041号 判決 1998年3月20日

第一事件原告

香田チヅ子

ほか二名

被告

奥田運輸株式会社

ほか一名

第二事件原告

住友海上火災保険株式会社

被告

香田チヅ子

ほか二名

主文

一  第一事件被告奥田運輸株式会社、同纓坂英司は、第一事件原告香田チヅ子に対し、連帯して、金六五七万五四八九円及びこれに対する平成八年二月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  第一事件被告奥田運輸株式会社、同纓坂英司は、第一事件原告香田治男に対し、連帯して、金五四三万八七一九円及びこれに対する平成八年二月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  第一事件被告奥田運輸株式会社、同纓坂英司は、第一事件原告香田和也に対し、連帯して、金五四三万八七一九円及びこれに対する平成八年二月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  第一事件原告らのその余の請求を棄却する。

五  第二事件被告香田チヅ子は、第二事件原告住友海上火災保険株式会社に対し、金一〇万八二五五円及びこれに対する平成九年八月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

六  第二事件被告香田治男は、第二事件原告住友海上火災保険株式会社に対し、金五万四一二七円及びこれに対する平成九年八月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

七  第二事件被告香田和也は、第二事件原告住友海上火災保険株式会社に対し、金五万四一二七円及びこれに対する平成九年八月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

八  第二事件原告のその余の請求を棄却する。

九  訴訟費用は第一事件、第二事件を通じ、これを一〇分し、その五を第一事件原告兼第二事件被告香田チヅ子、同香田治男、同香田和也の、その四を第一事件被告奥田運輸株式会社、同櫻坂英司の、その余を第二事件原告住友海上火災保険株式会社の各負担とする。

一〇  この判決は、第一項ないし第三項、第五項ないし第七項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  第一事件関係

1  被告らは、原告香田チヅ子に対し、連帯して、金一六七六万〇三三五円及びこれに対する平成八年二月一四日(事故の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告らは、原告香田治男に対し、連帯して、金一〇三三万一一四二円及びこれに対する平成八年二月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  被告らは、原告香田和也に対し、連帯して、金一〇三三万一一四二円及びこれに対する平成八年二月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  第二事件関係

1  被告香田チヅ子は、原告に対し、金一〇八万二五五〇円及びこれに対する平成九年八月一四日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告香田治男は、原告に対し、金五四万一二七五円及びこれに対する平成九年八月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  被告香田和也は、原告に対し、金五四万一二七五円及びこれに対する平成九年八月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、普通貨物自動車を運転中、交差点において、大型貨物自動車と衝突し、死亡した香田陽太郎(以下単に「陽太郎」という)の遺族である香田チヅ子、香田治男、香田和也(以下それぞれ「原告チヅ子」「原告治男」「原告和也」という)が、大型貨物自動車の運転手である纓坂英司(以下「被告纓坂」という)に対し民法七〇九条に基づき、保有者である奥田運輸株式会社(以下「被告奥田運輸」という)に対しては自動車損害賠償保障法三条に基づいて損害の賠償を求め(第一事件)、他方大型貨物自動車の損害保険会社である住友海上火災保険株式会社(以下「住友保険」という)が原告チヅ子、原告治男、原告和也に対し民法七〇九条、商法六六二条に基づき求償をなした(第二事件)である。

一  争いのない事実及び争点判断の前提事実(1ないし5、7は争いがなく、6は乙一による)

1  事故の発生

(一) 日時 平成八年二月一三日午前五時四分頃

(二) 場所 大阪市福島区吉野四丁目二九番一六号先交差点

(三) 関係車両 被告纓坂運転の大型貨物自動車(大阪一一う九二八七号、以下「被告車」という)

陽太郎運転の普通貨物自動車(なにわ一一く七七四四号、以下「原告車」という)

(四) 事故態様 交差点において、原告車と被告車が衝突した。

2  陽太郎の死亡

陽太郎は、本件事故によって傷害を負い、死亡した。

3  原告らの地位

原告香田チヅ子は陽太郎の妻、原告治男、原告和也は陽太郎の子であり、陽太郎の権利義務について、原告チヅ子は二分の一、原告治男、原告和也は各四分の一ずつを承継した。

4  被告奥田運輸の責任原因

被告奥田運輸は被告車の保有者であり、自動車損害賠償保障法三条の責任を負う。

5  被告纓坂の責任原因

被告纓坂は民法七〇九条の賠償責任を負う。

6  住友保険の地位

住友保険は、被告奥田運輸株式会社との間で被告車を被保険車両として車両保険を含む損害保険契約を締結していた。

7  損害の填補

(一) 原告らは自賠責保険金二九〇〇万六五〇〇円を受け取っている。

(二) 原告らは被告奥田運輸から一〇〇万円を受け取っている。

(三) 原告チヅ子は、遺族年金三九〇万一九五〇円を受け取ることが確定している。

二  争点

1  過失相殺

(原告チヅ子、原告治男、原告和也(以下「原告ら」という)の主張の要旨)

陽太郎の過失割合は一割にとどまる。

(被告纓坂、被告奥田運輸、住友保険(以下「被告ら」という)の主張の要旨)

被告纓坂に過失があることは認めるが、陽太郎には前方不注視及び大幅な制限速度違反の過失があり、大幅な過失相殺がなされるべきである。

2  第一事件の損害額全般

(原告らの主張)

(一) 文書費 六五〇〇円

(二) 逸失利益 四八三八万三五七八円

内訳

(1) 就労分 二三五九万七九八三円

計算式 四六三万一九六〇円×(一-〇・三)×七・二七八=二三五九万七九八三円

(2) 年金分 二四七八万五五九五円

計算式 二九九万九〇〇〇円×(一-〇・三)×一一・八〇六六=二四七八万五五九五円

(三) 死亡慰藉料 二六〇〇万円

(四) 葬儀費用 一二〇万円

(一)ないし(四)の合計七五五九万〇〇七八円に被告纓坂の過失割合九割を乗じた六八〇三万一〇七〇円に(五)相当弁護士費用三三〇万円を加えた七一三三万一〇七〇円から前記一の七(一)、(二)の損害填補額三〇〇〇万六五〇〇円を差し引くと四一三二万四五七〇円が求められる。そこで、原告チヅ子は右金額にその相続分(二分の一)を乗じた二〇六六万二二八五円から更に前記一の七(三)の損害填補額三九〇万一九五〇円を差し引いた金一六七六万〇三三五円、原告治男、原告和也は前記四一三二万四五七〇円にその相続分(四分の一)を乗じた一〇三三万一一四二円及びこれらに対する本件事故日の翌日である平成八年二月一四日から支払済みまでの年五分の割合による金員の支払を求める。

3  第二事件の損害額全般

(住友保険の主張)

被告車は、二二三万五一〇〇円の修理代を要する損傷を受けたので、住友保険は免責額七万円を除く二一六万五一〇〇円の保険金を支払った。

第三争点に対する判断

一  争点1(過失相殺)について

1  認定事実

証拠(甲三の1ないし54)及び前記争いのない事実を総合すると次の各事実を認めることができる。

(一) 本件事故は、別紙図面のとおり、中央分離帯がある片側二車線の南北に延びるほぼ直線の道路(以下「南北道路」という)と、北東から南西に延びる七車線の道路(以下「東西道路」という)によってできた十字型交差点において発生した。右交差点は市街地にあり、信号機によって交通整理がなされている。南北道路の最高制限速度は時速四〇キロメートルであり、交差点付近における北進車及び南進車からの前方の見通しは良いが、右方の見通しは悪い。

交通量は頻繁であり、事故当日の午前六時〇五分ころから行われた実況見分時において、東西道路の交通量は三分間で約三〇〇台、南北道路は一五〇台に及ぶ。

(二) 被告纓坂は南北道路を時速約七〇キロメートルの速度で被告車を南進走行させていたが、別紙図面<1>(以下符号だけで示す)において、本件交差点で右折すべく、右折の合図を出して時速四五ないし五〇キロメートルに減速し進行したが、対面信号が青信号であるにも拘わらず、これを右折可の青矢印信号を出していると見誤り、右速度のまま右折を開始した<4>において、前方四六メートルの<イ>に原告車が直進して来るのを認め、急制動をかけたが及ばず、<5>において<ウ>の原告車と衝突した(衝突地点は<×>)。衝突後、被告車は<6>に停止し、原告車は<エ>に停止した。なお、別紙図面に図示するように、現場には、被告車のブレーキ痕が残されていた。

(三) 他方、陽太郎は、対面青信号に従い、本件交差点を直進しようとした際、本件事故に遭った。

2  判断

右によれば、被告纓坂は右折に際して、信号を見誤った結果、優先関係にある直進車が交差点に進入しようとしている際、一時停止ないしは徐行をなさないまま右折を開始した過失があり、その責任は重大である。

他方、陽太郎は、右折車の動静に充分な注意を払う義務があったにも拘わらず、これを怠った過失があったことが認められる。

右過失の内容を対比し、前記道路状況、被告車が大型貨物自動車であることあること等前記認定の事実を加味して考えた場合、その過失割合は被告纓坂が九に対し、陽太郎が一と考えられる。

なお、被告らは「陽太郎は制限速度を大幅に超過して走行していた。」と主張しているのでこれについて検討する。甲三の50には科学捜査研究所技術吏員の見解として「被告車のタコグラフ及び両車両の破損状況から追突時の両車両の速度を割り出すことはできない。」旨の記載があり、他にも原告車が制限速度を超過していたことの客観的資料は存しない。なるほど、甲三の51には、「関係距離からすると被告車が四五キロメートルで右折した場合、原告車の速度は時速六八・七キロメートル、被告車が五〇キロメートルの場合は原告車は七六・三キロメートルと推定される。」旨の記載がある。しかし、右計算は、被告車の右折開始時から衝突時までの速度に変化がないことを前提とする推定計算であるところ、前記のように被告纓坂は右折開始後急制動をかけており、現に実況見分時においても被告車のブレーキ痕が存していたのであるから、被告車の速度は右折開始時から衝突時まで相当程度減速していたと推認できる。そして、右減速の程度が大きければ、計算上、原告車の推定速度も減少するという関係がある。したがって、右証拠から原告車が大幅に、即ち過失割合に関する評価に影響を及ぼすほどに、制限速度を超過して走行していたと認めるには不十分と言わざるを得ない。

二  争点2(第一事件の損害額全般)について(本項以下の計算はいずれも円未満切捨)

1  文書費 六五〇〇円

(主張同額 弁論の全趣旨)

2  逸失利益 三二〇八万三九二一円

(主張四八三八万三五七八円)

(一) 就労分について

証拠(甲三の25、甲五の1、2、六、七の1、2、八ないし一一、乙六、証人越智昌史、原告チヅ子本人)によれば、陽太郎(昭和五年九月二一日生)は、当時六五歳の健康な男性であり、伊豫運送株式会社に運転手として勤務し、年間四六三万一九六〇円の収入を得ていたこと、右会社の就業規則上、定年は男子で五五歳であるが、「業務上必要あり、かつ従業員が心身健全にして、業務に耐えると認めたときは、改めて期間を定めて嘱託もしくは臨時員として雇用することがある。」とされていたこと、しかし伊豫運送は従来、右就業規則に定める年齢に達した者を正社員として継続雇用しており、陽太郎も正社員として勤務していたこと、陽太郎は今後とも伊豫運送において勤務を継続したいとの意向を持っていたことが認められ、右各事実によれば、逸失利益の基礎収入を年四六三万一九六〇円とする原告らの主張もあながち理由がないわけではない。しかしながら、他方、証拠(証人越智昌史、原告チヅ子本人)によれば、伊豫運送の全従業員三七名中、現在、最年長は昭和六年四月生の者であること、陽太郎の作業内容は、広告類を運搬する車両の運転にとどまらず、広告類の仕訳、一五〇〇キログラムに及ぶ積荷の手積みによる上げ下ろしを含むものであったことが認められ、右認定事実によれば、本件事故に遭わなかった場合、既に六五歳に達していた陽太郎が伊豫運送での勤務を継続していたか、勤務を継続していた場合でも年間四六三万一九六〇円に及ぶ年収を得られたということには疑問が残る。陽太郎の就労分の逸失利益は平成八年度賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計、男子労働者六五歳から六九歳までの平均年収三九五万五八〇〇円によるのが相当である。

証拠(原告チヅ子本人)によれば、陽太郎は、原告チヅ子と同居し、同原告も、勤務をしていたがその身分は嘱託社員であり、その収入額も陽太郎の年収の三分の一程度にとどまることが認められ、一家の生活は主として陽太郎の収入によって支えられていたと評価できるので、生活費割合は三割とするのが相当である。

また、平成六年簡易生命表によれば六五歳男子の平均余命が一六・六七歳であることから、就労可能期間は八年間とすべきである。

(二) 年金分について

証拠(甲六、七の1、2、八)によれば、陽太郎に対し、年二九九万九〇〇〇円の年金が支給されていたことが認められる。生活費割合については、前記陽太郎の生活状況の他、年金がその性質上、生活費に費消される部分が多いことから六割とするのが相当である。

(三) 算定

(一)、(二)に基づき、ホフマン方式に従って、中間利息を控除して陽太郎の逸失利益を算定すると前記金額が求められる。

計算式

(1) 就労分 三九五万五八〇〇円×(一-〇・三)×六・五八九(八年に対応するホフマン係数)=一八二四万五三三六円

(2) 年金分 二九九万九〇〇〇円×(一-〇・六)×一一・五三六(一六年に対応するホフマン係数)=一三八三万八五八五円

(3) (1)+(2)=三二〇八万三九二一円

3  死亡慰藉料 二二〇〇万円

(主張二五〇〇万円)

1において認定の各事実、本件事故態様等本件審理に顕れた一切の事情を考慮して右金額をもって慰謝するのが相当である。

4  葬儀費用 一二〇万円

(主張同額)

本件事故と相当因果関係がある葬儀費用は一二〇万円とするのが相当である。

三  争点3(第二事件の損害額全般)について

証拠(乙一、二、四、五)及び弁論の全趣旨を総合すると、被告車は、本件事故によって二二三万五一〇〇円の修理代を要する損傷を受けたので、住友保険は平成八年四月一〇日ころ、免責額七万円を除く二一六万五一〇〇円の保険金を支払ったことが認められる。

第四賠償額の算定

一  第一事件について

1  第三の二の合計は五五二九万〇四二一円である。

2  1の金額に前記被告纓坂の過失割合九割を乗じると、四九七六万一三七八円である。

3  2の金額から前記(第二の一の7(一)及び(二))損害填補額三〇〇〇万六五〇〇円を差し引くと一九七五万四八七八円となる。

4  原告チヅ子の賠償額

(一) 3の額に同原告の相続分である二の一を乗じ、これから前記(第二の一の7(三))損害填補額三九〇万一九五〇円を差し引くと五九七万五四八九円となる(但し、消極損害だけから控除する)。

(二) 2の金額、事案の難易、請求額その他諸般の事情を考慮して、同原告が訴訟代理人に支払うべき弁護士費用のうち本件事故と相当因果関係があるとして被告らが負担すべき金額は六〇万円と認められる。

(三) よって、同原告の請求は、(一)(二)の合計六五七万五四八九円及びこれに対する本件事故の翌日である平成八年二月一四日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

5  原告治男、和也の賠償額

(一) 3の額に同原告らの相続分である四の一を乗じると、四九三万八七一九円となる。

(二) 2の金額、事案の難易、請求額その他諸般の事情を考慮して、同原告が訴訟代理人に支払うべき弁護士費用のうち本件事故と相当因果関係があるとして被告らが負担すべき金額は五〇万円と認められる。

(三) よって、同原告らの請求は、(一)(二)の合計五四三万八七一九円及びこれに対する本件事故の翌日である平成八年二月一四日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

二  第二事件について

1  第三の三認定の金額二一六万五一〇〇円に陽太郎の過失割合一割を乗じると、二一万六五一〇円である。

2  これに第二事件各被告の相続分を乗じると、原告チヅ子について一〇万八二五五円、原告治男、原告和也について、それぞれ五万四一二七円が求められる。

3  よって、第二事件原告の請求は、各被告に対し、2の各金額及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 樋口英明)

交通事故現場見取図

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